僕は……

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『……忠誠心を、落としてしまったか』 フライヤ様が、ポツリと呟かれた。 すぐさま、滅相も無いことでございますと言わねばならないことは分かるのに、僕の本心がその言葉を飲み込んでしまって、言わせてくれない。 僕個人の幸せ……それを今まで考えたことが無かったのだ。 僕らハルベス・ドゥツェントは主を守護するために生きているのだから。 しかし、この十年ここで暮らしてきて、お義父さんお義母さんや、彼女をはじめたくさんの人々と関わって。 僕自身というものを考え始めてしまった。 ベルーリンにて戦いに明け暮れる日々は、確かに辛い。 それでも主に仲間がいるのだから怖いものなど何も無い。 ……違うのだ、そうではなくて。 僕がなにをして、どうやって生きていきたいのか。 僕は――― 「……そう、ですね。 悪魔なら牙が抜けてしまった、天使なら翼がもげてしまったのかも、しれません……」 我が主を見つめ返す。 「どうされますか。 こんな腑抜けでは、ハルベス・ドゥツェントの皆にも迷惑をかけてしまいます。 貴女が僕を許さないとおっしゃるのなら、この命、安いものですが捧げさせていただきます。 ……それでも」 チラリと彼女……すみれを見る。 「僕の大事な人達は、どうか巻き込まないでください。 僕は、ここにこうして生きたことを、その痕跡を、消してしまいたくないのです……!」 長く間があいて、フライヤ様はため息をつかれた。 『……余が。 ある程度の記憶操作が出来ることを、見越して言うておるな。 フィーアから聞いておるが、頭のキレはさすがのようだな』 そうだ。 テュール様が記憶操作の術をある程度心得ていらしたことから、フライヤ様もそれなりに行使なさるだろうと想像がつく。 フライヤ様ならば、ここから僕の存在を消してしまうことなど造作もないことなのだ。 もしくは、僕の中から。 フライヤ様からすれば邪念であろうここでの思い出を、一瞬にして消してしまうことだって、いとも容易いことだろう。
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