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『……ハルベス・ドゥツェントの皆に。 余は、なんと告げればいい?』
フライヤ様は、心底困ったというお顔をされた。 困らせたい訳では無いのだが、理解していただきたい。
「ありのままで、結構です。 僕は……ドライは、記憶が戻っても、腰抜けのままだった、と。 こちらの世界にて生きることを選んでしまったのだ、と。 僕の身勝手を許してくれ、なんて言えない、恨んでもいい、だけど……」
本当に勝手だと思う。 共に切磋琢磨し、共に苦楽を味わい、共に同じ夢を見てきた仲間を見捨てるだなんて。 だけど、許されるなら―――
「僕の心は、いつでも皆と共にあります。 皆がそれを許してくれなくても。 僕は……皆のことを、誇りに思います……!」
言いながら、泣けてきてしまう。 こんなのは矛盾している。 ここに残りたいと決断したのに、皆との絆を断ち切れないなんて。
『…………』
フライヤ様はしばし無言でいらした。 目を閉じられ、深く思案されているように見えた。
『―――進化……?』
「……はい?」
『いや、なんでもない。 気にするな……そちの思いの丈は確かに聞き取った。 ……承服しよう』
フライヤ様のお言葉に、思わず目を見張る。 正直に言うと、なにやら罰せられるだろう、最悪ここでの記憶を封じられるだろう、そして強制帰還させられるのだろう、などと考えていたからだ。
『……そちは、余の大切な忠臣。 異世界であろうと、時を越えようと、そちと余とハルベス・ドゥツェントは、いつ如何なる時も一つだ』
フライヤ様はそう言われて、僕の頬に優しく触れられた。
『幸せにな』
勿体ないお言葉に震えていると、フライヤ様はたしかに優しく微笑んでくださった。 そしてそのまま時空の転移に入られる。
「……あ、ありがとうございます……!」
フライヤ様のお身体は徐々に透けていかれ、やがて完全に消えてしまわれた。 辺りが眩しく金色の光に包まれた。
次の瞬間、カフェの中の時間が動き出す。 周囲のざわめきが一度に入ってきた。
「あ……、大丈夫か、すみれ……?」
「ミッキー……あれ、さっきの子は? ……っていうか……」
しゃがみこんでいたすみれは起き上がり、僕の向かいの椅子に座り直しながら僕の顔をじっと見てきた。
「大丈夫、はミッキーのほうでしょ。 どうしたの……?」
「え、あ……」
言われるまで気がつかなかったが、僕は泣いていた。 涙が止まらなかったのだ。
「な……んでも、ないよ! 大丈夫……!」
すみれはバッグからハンカチを取り出して、渡してくれた。
「……無理、しないで?」
「……~~!」
昼下がりのデートは、涙に染まった。 だけど、辛くはない……むしろ幸せだ、とても。 僕の周りの皆は、僕を受け入れてくれる。 僕は、ここで……森 幹夫として精一杯、生きていく。
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