僕は……

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*** 時空転移してきたフライヤは、ベルーリンの神殿の最奥……ハルベス・ドゥツェントでさえ立ち入りを許可されていないその部屋に姿を現す。 天井が高く無駄に広いその部屋は、真ん中がぼんやりとした空間になっている。 そこは時空がねじれ、亜空間へ繋がっていた。 ―――お帰りなさい。 (ドライ)のことは残念でしたね――― 『……まったくだ! ぬしが言っていたから、わざわざ余が直接出向いたというのに! 空振りに終わるとはな……皆に言わずして出ていて、正解だった』 フライヤは、亜空間から響いてくる声に大儀そうに答える。 ―――ふふ。 一人でも仲間の顔を見てしまったら、おそらく彼は思考を止めてしまうでしょう? だから、面識の薄い貴女に頼んだのではありませんか。彼の……可能性に賭けたのです――― 響いてくる声は楽しそうに聞こえた。 フライヤはそこが気にかかり、問い返す。 『ぬしは……ドライが還らぬほうが、良かったのか? 先程も言うておったが、進化とは……どういう事だ?』 ―――そう……進化。 分かっているでしょう、フライヤ。 彼ら(ハルベス・ドゥツェント)だけではありません。 貴女も、私でさえも。 我らが神、ヴォーダン様のでしかないのですよ。 それが分かっているから貴女は、(ドライ)を笑って見送ることができたのでしょう?――― フライヤは、眉間に皺を寄せて目を閉じた。 響いてくるその声―――彼女という分身を生み出した、今は魂だけの状態であるテュールが言う、その意味は分かっている。 彼ら (ハルベス・ドゥツェント)は知らない。 いや、知って欲しくないと彼女は思った。 彼らのことを大切に思っているというのは、彼女の本心であるから。 『……ヴォーダン様の因子……因果律か』
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