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僕の名前は、森 幹夫。
歳はおそらく二十五。 中肉中背、身体能力にはそれなりに自信あり。 腕っ節も足腰も強いほうだと思う。 かつての僕を助けてくれた森診療所で働いている。
かつての僕―――今から十年前だそうだ。 僕は全身怪我だらけのボロボロの身体で、この診療所の近くに倒れていたらしい。 それを近所の方が見つけて、ここに運びこまれた。
深い眠りから目覚めた時、僕は記憶を失っていた。 自分が誰で、どこから来たのか、何をしていたのか、全く思い出せなかった。
森診療所は小さい町医者だ。 診療所を経営している森夫妻―――お義父さんお義母さんは、そんな僕を養子にしてくれた。 二人には子供さんがいなかった。 お義父さんのほうの身体の都合だそうだ。 帰る場所も無い名前も無い僕に、居てもいい場所と森 幹夫という名前をくれて、実の息子のように可愛がってくれた。 名前の由来はお義母さんが、某ネズミのキャラクターが大好きだからだそうだ。
夫婦で経営している森診療所で、僕は家族の一員としてお手伝いをしてきた。 お義父さんは高校入学を勧めてくれたけど、僕は少しでも早く二人の役に立ちたかった。 結局高校には通わずに、診療所にて社会勉強をするという道を選んだ。 力仕事は進んでしたし、必要な資格などは頑張って勉強して取得した。
一年ほど前のことだが、お義父さんお義母さんは僕に、彼女を紹介してくれた。 名前は高岡 すみれ。 彼女のお爺さんがよく森診療所に通っている。
なんでも、お爺さんの付き添いで診療所に来た彼女は、僕に一目惚れをしたとのことで……お義父さんお義母さんは、彼女になら僕を託しても大丈夫と踏んでくれたようだ。 二人が仲をとりもってくれていなくても、いずれ僕は彼女に惹かれただろう。 僕の身の上……得体の知れない存在であるとカミングアウトした時も、彼女はとびきりの笑顔でこう言ってくれた。
『ミッキーがどこの誰かなんて、そういうのは私、全然気にしないよ? ミッキーの今が好き。 私、看護学生なんだからね、絶対素敵な看護師さんになるんだから。 そしたらここに……永久就職、させてもらって……いいかな?』
ちなみに彼女のこの言葉に、僕よりもお義父さんお義母さんが喜んでいた。 勿論僕も嬉しかったし、そんな頑張り屋な彼女に見合う人でありたい、と強く思った。
僕は―――森診療所の、森 幹夫。 それで良かったんだ、それなのに―――
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