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 組織に戻ると、昼間という事も相まって人は疎らだった。  任務を取り仕切る女はソファーで自分の爪磨きに夢中だし、他も似たようなもの。こっちなんて気にしてない。 「はい」 「確かに」  顔も上げない女にアタッシュケースを渡し。 「じゃあ後は上に聞いて」  開堂をその場に残して、足早に部屋に戻る。  完全にドアを締め切ると、ユキは簡易ベッドに腰掛けた。  紙袋から口もつけていないアイスティーを取り出した。氷はもうだいぶ溶けてしまって、色も薄まってる。ゆっくりと一口口にした。変な味はしない。  もう少し飲んでみたけれど、眠気も苦味も襲ってこない。  ーー多分、何も入ってない。  その事実に、ぼんやりと紙袋に視線をやる。これだけ経っても異常はないから、ハンバーガーにも何も入っていなかった。そしてアイスティー。これにも何も入ってない。 「何で……?」  なら何でこんな物を買ってくれたのかわからない。わからないけれど、何故か瞳から温かい滴が溢れ出した。
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