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でも、どうする事もできない。
「ほら、顧客リストと金」
「ん」
こんな所はさっさと退散するに限る。
「報告事項は?」
「特にない。最近の金の流れも顧客リストと一緒に入ってる」
「わかった」
特に問題がないのならと踵を返し、早々に事務所を後にしようとした。でも、卑しい声がユキ達を呼び止める。
「ったくその無表情どうにかなんねえのかよ。顔はいいんだ。男に媚び売る事覚えたらここで働けるぜ?」
「確かに! 売れっ子になれっぞー」
「そしたら見ててやっからよ!」
男達は馬鹿にしたような笑みをこちらに向けた。何が面白いのか、理解ができない。
「お前らっ!」
「何だよ、キレてるんじゃねーよ」
こんな事に怒る意味もわからない。
「ねえ」
ユキが静かに言葉を紡ぐと、男達の視線が再度集まった。
「私がここに送られない理由なんてわかりきってるでしょ。あんた達より使えるからだよ」
ただ、それだけだ。
「チッ」
「可愛げのない女だな」
「どうも。おっさん、行こ」
それだけを告げて、今度こそ事務所を出た。開堂はまだ何か言いたげだったけれど、ユキがそこを出れば仕方なさそうに後に続く。
不快な喘ぎ声や絶叫は、やはりビルから出るまで耳にまとわり続けた。
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