14/20

374人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
「ここは何なんだ!」  ビルを出た瞬間、開堂は唸った。 「組織がやってる売春屋の一つ。まだあるよ」  ユキは何でもない事のように告げ、停めていた車に乗り込む。開堂も倣うように運転席に座ってシートベルトを締めた。それでも感情が収まらないのか、何か言いたげな顔をして発車しようとはしない。 「だから来ない方がいいって言ったでしょ?」  もう一度言えば、その表情は更に歪んだ。 「君はいつもこんな事をしてるのか……?」 「こんなのまだましな任務だよ」  少なくとも、直接誰かを傷つける事はないんだから。そう言うと。 「そうか」  短い返事が返ってきた。  もう二軒ギャンブル場を見回ると、今日の任務は完了だ。空だった鞄はずっしりと重みを持ち、ユキの足元に収まっている。いつの間にかすっかり夜になり、車は外灯の少ない暗がりを走り続けた。 「……なあ、少し寄り道してもいいか?」  期待してはいけないとわかってる。だけどほんの少しだけ期待してしまう。 「……どうぞ」 「サンキュ」  ユキが素っ気なく返すと、開堂はウィンカーを出して向かう方向を変えた。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

374人が本棚に入れています
本棚に追加