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「ここは何なんだ!」
ビルを出た瞬間、開堂は唸った。
「組織がやってる売春屋の一つ。まだあるよ」
ユキは何でもない事のように告げ、停めていた車に乗り込む。開堂も倣うように運転席に座ってシートベルトを締めた。それでも感情が収まらないのか、何か言いたげな顔をして発車しようとはしない。
「だから来ない方がいいって言ったでしょ?」
もう一度言えば、その表情は更に歪んだ。
「君はいつもこんな事をしてるのか……?」
「こんなのまだましな任務だよ」
少なくとも、直接誰かを傷つける事はないんだから。そう言うと。
「そうか」
短い返事が返ってきた。
もう二軒ギャンブル場を見回ると、今日の任務は完了だ。空だった鞄はずっしりと重みを持ち、ユキの足元に収まっている。いつの間にかすっかり夜になり、車は外灯の少ない暗がりを走り続けた。
「……なあ、少し寄り道してもいいか?」
期待してはいけないとわかってる。だけどほんの少しだけ期待してしまう。
「……どうぞ」
「サンキュ」
ユキが素っ気なく返すと、開堂はウィンカーを出して向かう方向を変えた。
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