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「きれい……」  ユキが呟くと、開堂は良かったと笑った。 「寝る前に嫌な事思い出すと次の日まで引き摺るからな。嫌な事があった日は少しでいいから幸せな気持ちになってから寝るといいんだ。ま、ばあちゃんの受け売りだけどな」  足は勝手に動いた。鞄を抱き抱え、ゆっくり外に出る。柵に片手をついて、その光景を見下ろした。  ーー本当に……暗闇の中、光がどこまでも続いてる。  今までも夜の街を車で走った事は何度もあるけれど、街の光がこんなに綺麗だと思った事なんてない。まじまじと夜景を見た事なんてない。こんな所に連れてきてもらった事なんてない。 「……ほんとは星も見えると良かったんだけど、今日は曇ってるな」  上を見上げると、確かに空には雲がかかり、星を見つける事はできなかった。  でも、そんな事気にならない。寧ろ、安堵さえした。 「ううん、これで十分……」  ユキはそう言って、再び柵の向こうの世界を見下ろした。  暫くすると、二人は帰路についた。身構えていたような事は何も無くて、開堂は鞄に指一本触れていない。  なら何でわざわざ。それが不思議で仕方ない。
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