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端の席で一言も発さずにいたユキは、耐えきれずに立ち上がった。
「どうした?」
「部屋に戻るだけ」
「つれねーなー! お前もちっとは楽しめよ!」
「そーそー! 少しは愛想良くしたらどう?」
「ま、無理だろうけどなー!」
馬鹿にするような言葉はいつもの事。
何を言われても反応しない。言い返さず無表情でいればすぐに終わる。これがここで過ごした日々で学んだ事だ。
だけど、バーカウンターの前を無言で通り過ぎようとしたところで、扉が開く音がした。
「お! 早いな!」
「できないって泣きつきに来たか?」
振り返ると、そこには開堂が立っていた。からかうような言葉を投げかけられる中、開堂は困ったように眉を寄せて言った。
「いや、殺してきた」
ーーは?
その音は誰からともなく発せられた。
だってまだ指示を受けてから一日しか経ってない。事前にターゲットを教えていたわけでもない。ターゲットのスケジュールや住所なんかの情報も一切教えてない。それで一日だ。
「ありえねえだろ」
「あのさー、嘘言うとこの場で始末されるよ?」
スキンヘッドの男とその女が吐き捨てるように言ったけれど、開堂は首を横に振る。
「いや、本当についさっき退社するところを刺し殺してきた。嘘だと思うならネットでもテレビでも見てくれ」
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