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やがて車は一軒の大型ホテルの駐車場に入った。
「はい」
「何だ、これ?」
「偽の身分証と名刺。おっさんは開堂新平っていう名前だって」
「は?」
呆ける開堂に名刺入れを渡して、ユキは持ってきたボストンバッグを手に取る。中から取り出したのは任務の時しか着ないワンピースだ。
「着替えるから出てて」
「ここでか⁉︎」
「そう。それと間違えないように免許証に書いてある生年月日と住所を暗記しておいて」
「何やるんだ」
「不動産買うだけ」
「は⁉︎」
「脱ぐよ。出てて」
もう一度言えば、開堂は驚きながらも素直に外に出てくれた。わざわざ車に背を向ける辺りが組織の人間らしくない。
ーー本当によくわからない。
思いながら、服に手をかけた。
別に見られようと何しようと困りはしない。堂々とジャケットを脱ぎ、ニットを脱ぎ、スキニーパンツを脱いで、紺色の上品なワンピースを着る。普段はほとんどしないメイクもして、長い髪も小道具の髪飾りでサイドで纏めた。
「お待たせ」
「おう……」
「行こう。三時半にラウンジで業者と待ち合わせだから」
それだけ伝えてホテルへと足を向ける。だけどあると思っていた返事はなかった。
「……何?」
「いや、そうしてると大人っぽく見えるな」
「それが狙いに決まってるでしょ」
「ほんとに何歳なんだ?」
「……さあ?」
答えなんて持ち合わせてない。
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