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帰りの車に乗り込んで、暫くはお互い何も話さなかった。ユキも無言で、自身の横の窓から移りゆく景色を眺めるばかり。
沈黙を破ったのはやはり開堂だ。
「……あれ、いくらあったんだ?」
「百万円入りの封筒が十二」
ユキが素っ気なく答えると、驚きの声が返ってくる。
「千二百万⁉︎ そんなに持ち歩いてたのか⁉︎」
「まあね」
「……持ち逃げしようとは思わないのか」
「……どこに逃げるのよ」
組織のやり方は全て教え込まれた。逃げようと思えば逃げ切れる。でも、その後は?
ーーどこに行けばいい?
ーー何をしたらいい?
ーーどうやって生きる?
自問しても答えは出ない。組織もそれをわかっているからこうやって大金を任せるんだ。
窓の外の人達とは世界が違いすぎる。
「そうか」
その瞬間、車は急に向きを変えた。
「ちょっと! おっさん⁉︎」
「寄り道寄り道!」
慌てて振り返ると、開堂は楽しそうに笑って車を元来た方へと走らせる。
「さっきあっちに結構人が入ってるケーキ屋があったろ?」
その笑顔があまりに陰りも何もなくて、反対する言葉も出てこない。
「……わかった」
ユキは再び座席に深く身を預けた。
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