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「美味しい……」
今度は茶色のケーキを一口。こっちも驚くくらい甘くて優しい味だ。
「美味しいっ……」
ユキの口からはもうその言葉しか出てこなかった。二つのケーキを交互に、味わうようにゆっくり口に運ぶ。その姿を、開堂はただ微笑って見つめ続けた。
ケーキを食べ終えて車に戻っても、会話はなかった。まだ頬の裏側はケーキの甘さを覚えていて、緩んだまま元に戻らない。頬だけでなく口元まで緩むから困り物だ。
やがて高速を半分くらい過ぎて、開堂が切り出した。
「なあ。今日買ったマンション、何に使うんだ?」
ーーきた。
ユキの人差し指がピクリと動いた。
今までならこんな質問答えなかった。だけどもういい、そう思えた。
窓の向こうに視線を向けたまま、何でもない事のように答えを紡ぐ。
「教えてもらってないけど、多分悪い物の隠し場所兼何かあった時の潜伏用」
「悪い物って何だ?」
「輸入した武器とか薬。あとは政治家や大企業の幹部を脅せるような悪いネタとかかな」
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