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 東京と埼玉の県境にある工場群。施設はその一画にある。  二階建ての巨大な建物で、敷地内には常に多くのトラックや大型車が停まっている。四方には有名な食品会社のロゴが描かれ、傍目には食品の研究施設か工場に見えるだろう。  だけど、そんなの見た目だけだ。  裏口から建物に入ると、コンクリート張りの廊下が真っ直ぐに続いている。いつだってひんやりとしているその廊下を突き進めば、行き着くのはまるでバーのような光景だ。  薄暗い部屋の照明は小さなシャンデリアだけ。床は柔らかいカーペットで覆われ、広い室内にはソファー席が点在している。  少女が一歩足を踏み入れると、部屋の一番奥の席から嗄れた声が出迎えた。 「帰ったか、ユキ」 「……はい」 「飲ませたな?」 「……はい」 「ならいい、下がれ」  ユキと呼ばれた少女の声には感情なんて欠片も込められてない。最後の言葉には返事すらしなかった。だけど、結果に満足した男は気にも留めない。  ユキはそのまま部屋の中程、バーカウンターの奥から左右に伸びる廊下へと足を進めた。この奥が自分に与えられた部屋だ。  だけど廊下に辿り着く前に、手前のテーブルに座る男に呼び止められる。
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