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悟られないようにしているつもりだろうけど、開堂が唾を飲み込んだのがわかった。声色も変わる。
「……こういう所、いくつもあるのか?」
「うん」
「どこにあるんだ?」
その問いかけに一瞬悩んだ。
答えてもいい。でも、まだ答えたくない。
「……おっさんが任務をこなして、信頼を得ていけば少しずつ教えてもらえるよ」
結局当たり障りのない事を教えた。
車は高速道路を出た。工場群まではもうそんなにかからない。この時間ももうすぐ終わりだ。
「……ユキはそういう事も全て知ってるのか?」
「……まあね。長いから」
「そうか……」
開堂はそれきり押し黙った。
窓の外が見慣れた光景ばかりになってきて、ユキも窓から身を離す。ようやく正面を見据えると、工事は目前に迫っていた。
「おっさん」
「ん?」
「……ケーキ、ありがとう。美味しかった」
「ああ。良かった」
開堂が微笑ったのと同時に、車は敷地に入った。
ユキもまた微笑み、そしてそのまま目を閉じた。この時間は終わりだ。切り替えないと。自分に言い聞かせ、目を開ける。
もういつもの無表情のユキに戻っていた。
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