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夜の工場街を連れたって歩く。
断る事もできた。普段なら断っている。なのに断る選択肢は生まれなかった。
「ユキは他の奴と飲んだりしないのか?」
「何で嫌いな奴らと飲まなきゃいけないの」
小さな声で返すと、開堂はまた困ったように呟く。
「何で嫌いなのにここにいるんだ……」
「言ったでしょ。他に行く場所なんてない」
少しの間沈黙が流れた。
街灯の少ない道は、雲が月を覆っている事も相まって薄暗い。既に建ち並ぶ工場のほとんどが閉まっているから人気も少ない。それが心地いい。
「ユキ」
「え?」
ぼんやり歩いていると、突然腕を引かれた。よろける程の力強さに顔を上げると、途端に車がすぐ横を走り過ぎる。
「ぼーっとしてると危ないだろ」
「……ありがとう」
「内側歩け」
開堂はそう言って、更にユキの腕を引いた。その手は先程よりも優しくて、でも有無は言わせない。心臓の鼓動が速くなる。
「どうした?」
ユキが何も言わずにいると、真正面に開堂の顔が現れた。
「……何でもない」
中肉中背。髪も染めていなければ、ピアスもない。運動をしているのか体つきはガッチリしているけれど、顔も体も秀でているわけではない。普通の人だ。
そんな人が優しくしてくれる。心配してくれる。組織の中で向けられてきた蔑むような表情はどこにもない。
ーー幸せになりたい……。
心がカチリと音を立てた気がした。
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