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「待て、ユキ」
「何……?」
「明日の用意だ」
スキンヘッドが目を引くその男は、足元から銀色のアタッシュケースを取り出した。おそらく中身は現金だけど、いくら入っているかはわからない。どうせ取引終了まで開く事はないから、知る事もない。
「何で今言うの。明日でいいでしょ?」
「明日は俺も別の仕事だ」
「……そう」
「取引は明日の正午、場所はここだ」
「……ええ」
ユキが素直にアタッシュケースとメモを受け取ると、満足したらしい。スキンヘッドの男は満足げに口角を上げ、今度は顎で向かいに座る男を示した。
「新入りだ。取引に連れて行け」
「よろしく」
そこにいたのは三十代半ばくらいだろうか、短髪で少し無精髭を生やした男だ。刺青もピアスも傷もない。醜くもないし整いすぎてもいない、平凡な顔。
初対面のユキにも愛想笑いを浮かべるその様は、犯罪とは無縁に見える。この場とマッチしているのは服の上からでもガタイの良さがわかる体だけだ。
「……わかった」
差し出される手は無視して、その男に向き直る。
「……明日、午前十時五十分にここにいて」
淡々と告げると、男は少し残念そうに右手を下ろした。
「わかった」
これで今度こそここにいる理由はなくなった。
ユキは無言で男達の前を通り過ぎ、自分の部屋へと向かう。
背後で男達が何か話しているけれど、どうせどうでもいい事だ。部屋に入って完全に扉を閉めれば、もう何も聞こえない。扉に背を預け、そのままその場にしゃがみ込む。
そこには無音の世界が待っていた。
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