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「おいユキ」
「さあ、おっさんも飲も飲も」
まだ何か言いたげな開堂に笑ってグラスを差し出すと、開堂は慌てて受け取った。納得はしてなさそうだけど、とりあえずお酒は飲んでくれる。
その姿に、また笑みが溢れた。
お酒がだいぶ進み、料理もあらかた片付いた頃には、店内はだいぶ静かになっていた。こういう所のお店は都心に比べて閉店も早いのだろう。タイムリミットが迫っている。
ユキはグラスを置いて、開堂の方へと体を傾けた。
「ユキ⁉︎」
驚く開堂に、更に体重を乗せる。
「なぁに?」
「いや、酔ったか?」
「ううん」
答えながら肩に顔を埋めた。
組織の女達はいつもこうやって男に甘えてた。バーでこういう事をしていた奴らは、暫くすると部屋に消えていく。今まではそんな光景が嫌で仕方なかった。なのに今では真似してる。自然と口角も上がってしまう。
そして、戸惑う開堂に追い討ちをかけるように囁いた。
「……ねえ。帰りたくない」
数秒の間。
その後、開堂も囁いた。
「……もう一軒行くか?」
「うん……」
それ以上言葉は必要なかった。
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