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 翌朝、ユキが時間ちょうどにバーに入ると、無精髭の男は既に昨日と同じソファーで待っていた。 「おはよう」 「運転できる?」 「ああ」 「ならこっち」  アタッシュケースを持とうとするのを無視して、裏口へと向かう。男は慌てて後ろを着いてきた。  外に並んでいる車は三台。うち二台は幹部用の高級車だ。残った五人乗りの普通車の助手席に乗り込んでアタッシュケースは足元に置く。そうすれば、男も倣うように運転席の扉を開けた。 「房総方面に向かって。近くまで来たらまた指示を出すから」 「わかった。何て呼べばいい?」 「え?」 「俺は開堂と名乗るように言われた」 「……ユキ」 「そうか」  開堂がシートベルトを締めると、車はゆっくりと動き出した。  ユキは安全運転に身を任せ、窓の外へ視線をやった。民家、コンビニ、飲食店、空き地。次々変わり続ける景色をぼんやり眺め続ける。  沈黙なんて気にならなかったけれど、開堂は違ったらしい。 「もう、長いのか?」  十分程車を走らせたところで、ぽつりと溢した。 「え?」 「いや、一人で仕事を任せされるどころか、俺みたいな新入りの世話まで任せられるなんて随分信頼されてるんだなと思って」 「……まあね」  お互い視線を動かす事はしなかった。開堂は前方を見たまま尋ね、ユキは窓の外を眺めたまま冷たく答える。
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