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それで終わるかと思ったのに、開堂は尚も口を開いた。
「何歳なんだ? 俺よりずっと若いだろ?」
「……さあ」
「学生か?」
「……さあね」
「何でこんなところで働いてるんだ」
質問している筈なのに、その声はどこか非難めいている。
「何言ってるの。自分だってそうでしょう?」
思わず強く返すと「悪い」そう言って押し黙った。
車は高速で速度を上げ、やがて車窓の景色に海が加わった。大きな橋に漁船、コンテナ、工場群。様々な物が視界に映り、そして消えていく。
「次の出口で下りて」
「わかった」
窓に体を預けたまま指示を出すと、車はすぐに左車線へ移った。
高速を下りれば、指定された場所まで十分足らずで着くらしい。車に表示された時刻は十一時四十分。少し早い。
「一度どこかに停めて」
開堂はすぐにコンビニの駐車場に車を停めた。
「何か買うか?」
「いい」
ユキはそれきりまた黙り込む。
開堂も何かを買いに外に出る事もなく、数分が経った。
「それ、いくら入ってるんだ?」
またもや沈黙を破ったのは開堂だ。視線の先にはアタッシュケース。
「知らない」
「何の取引なのか知ってるのか?」
「知らない」
「何の取引かも知らないでやってるのか⁉︎」
驚きを露わにするその姿に、どうしようもなく苛ついた。
「それ、今回だけは聞かなかった事にしてあげる」
「ん?」
怪訝そうにユキを見る開堂は、自分の言動がどれだけ危険な物かわかっていないらしい。
「私以外に言わなくて良かったね。取引の前に消されてるよ」
吐き捨てるように言えば、車内の温度は一気に下がった。
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