二、

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「何……?」 「話があるんだ」  その声は今まで聞いたどんなものよりも真剣で。 「……うん」  起きないという選択肢は生まれなかった。  話。そうは言ってもここはそういう事を目的としたホテル。あるのは広いベッドと広いお風呂。そして真っピンクのソファーだけで、開堂はユキをそのソファーへと誘った。 「何?」  ユキが座っても、開堂は座らない。ユキの目の前の床に膝をつく。 「ユキ、俺と来ないか?」 「え……?」 「これ以上辛い想いをさせたくない。組織を出て俺と暮らしてほしい」  信じられないようなその言葉。あまりに現実離れしてる。 「……組織はどこまでも追ってくるよ? 殺されるまで逃げ続けるの?」  尋ねると、開堂の手が重ねられた。 「そんな生活させない。暫くは隠れていてもらうけどな」 「……じゃあどうやって生きていくの? 組織のお金を奪っていく? 厳重に管理されてるよ」 「違う」 「なら……また悪い事をしてお金を稼ぐ?」 「そんな事させないっ!」  否定の言葉を聞く度に、頭が冷静になっていく。 「どうして……?」 「俺はユキに日の当たるところで生きてほしいんだ」 「……戸籍もないのに?」 「それも、絶対どうにかしてやる」 「……そう」  無理だ。そう思った。  大体、そこまでして私を助けるメリットなんてない。なら考えられるのは一つだけ。 「今は言えないが、俺の本名も目的もちゃんと言う。だから信じてほしい」 「……うん」  きっと終わりが近い。こんな時にどうしたらいいかなんて習ってない。曖昧に口角を上げ、小さく頷いた。
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