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開堂との次の任務は、その三日後。電話詐欺の拠点の見回りだった。多額の現金が受け渡される以外、難しい事は何もない。比較的早く終わる任務の一つだ。
拠点から現金を回収し、組織へ戻る車の中で、静かに切り出した。
「……ねえ、おっさん」
「何だ?」
「このお金、欲しい……?」
「え?」
「このお金、欲しいならどうにかしてあげるけど」
「ユキ!」
開堂は見た事ない勢いで吠えた。
「……何千万かあるよ? 欲しくないの?」
「欲しくない」
同時に車が路肩に停められる。開堂は怖いくらい真剣な目でユキを見た。
「ユキ、俺はもうお前にそういう嫌な事をしてほしくないんだ」
「お金はいらないって事?」
「ああ」
「……なら情報は?」
「え?」
「組織の弱みになる情報は?」
「それは……」
今までと一転、開堂は言い淀んだ。だけどそれも少しの事。
「……あると助かる」
それが答えだと思った。
「……わかった」
「協力してほしい。必ず君を組織から連れ出すから」
「…………うん、いいよ」
もう、いい。
「おっさん、私からも一つお願いがあるんだけど」
「何だ?」
さっきから開堂の奥に見えている大きな看板。楽しそうな絵が描かれたその場所は、自分から最もかけ離れた場所の一つだ。その看板を指さして言った。
「あそこ、連れて行って」
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