三、

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「何だ、これ……?」 「……組織の全データをコピーしてきたの。持っている施設も、やってる事も、収入源も、メンバーの一覧も全部入ってる」  欲しがると思って。 「こんなの、どうやって!」 「……幹部しか入れない部屋も入り放題だから」  はい。開堂の手にメモリーを押し付けて水槽から手を放すと、メモリーは完全に開堂の手に渡った。  渡せる情報はこれで終わり。この夢のような時間も今日で終わりだ。 「……ユキ、ここでちょっと待っててくれるか」 「いいよ」  こんなに焦ったような表情は、出会って初めてかもしれない。ユキは開堂がどこかに消えると、再び水槽を眺めた。  こんなに綺麗な世界にいる魚達は外にこんな汚い世界があるなんて知らないだろう。前ならきっと羨ましかった。でも今は違う。  ――本当に、楽しかった。おっさんに出会えて良かった。  情報は、開堂の今までの手間の対価に足りる筈。開堂が警察なら犯罪を証明するだけの証拠になるし、開堂が他の犯罪組織の人間なら組織を潰せるだけの弱みになる。  なんにしても役には立てた。 「お待たせ」 「うん」 「帰るか」 「……ん」  戻ってきた開堂は、尚も優しく手を繋いでくれた。そんなサービスしなくていいのに、なんて思うけど、もしかしたら元から可哀想な子を放っておけない性格なのかもしれない。  車を開けてもらって乗り込むと、また膝の上の手に手を重ねられ、囁かれる。 「……ユキ、明後日午後六時に迎えに行く。必ず自分の部屋にいてくれ」 「……うん」  終わる日が決まった瞬間だった。
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