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 車内が静かになって、ユキは漸く窓から身を離した。  時刻は正午五分前。そろそろだ。  だけどふと上を見上げると、ミラー越しに何とも言えない表情の開堂と目が合った。 「おっさん、もう出して」 「え?」 「だから早く出して」  普段ならこんな事、絶対言わない。だけどショックを受けたような表情に、ほんの少し胸が痛んだ。 「おっさんはちょっと酷くないか⁉︎」 「随分年上なんでしょ? おっさんで十分」  もう一度呼べば、開堂は困ったように笑う。 「わかった、おっさんでいいよ。車、出すぞ」 「うん」  車はまたゆっくりと動き出した。  指定された場所は高速道路の出入り口の少し先、長閑な田園地帯の沿道だ。人気のないその場所には、既に黒い車が一台停まっている。 「あそこ」 「ああ」  開堂は黒い車の少し後ろに車を停めた。 「待ってて」  それだけ告げて、外に出る。アタッシュケースはまだ持たない。  前の車からも若い金髪の男が降りてきた。その手には同じようなアタッシュケース。武器も無さそうなのを確認してから、ユキもアタッシュケースを手に持った。  お互い言葉はない。一歩、また一歩と歩み寄って、無言でアタッシュケースを交換する。お互いの手に渡ったら、後は長居無用だ。  アタッシュケースを交換したその瞬間、踵を返して車に駆け戻る。そして。 「え⁉︎」 「出してっ!」  車に飛び乗ったと共に叫んだ。
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