三、

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 偽りなのはわかってる。  でも。生まれて初めて人に優しくしてもらった。一生分大切にしてもらった。  こんな感情、知らなかった。  心臓ごと暖かくなるなんて初めて知った。  あのまま殺してほしかった。  眠っているうちに終わらせてほしかった。水槽を眺めているうちに終わりたかった。  でも、おっさんに手を汚させなくて済んで良かった。  ――なんて……。    ――なんて幸せなんだろう。  幸せな思い出ができた。  私が体験する筈がなかった『あちら側』を、少しだけ体験させてもらった。  ――ユキ、うまいだろ⁉︎  ――ユキ、こっちだ。  ――ユキっ  ――っユキッ……!  水はもう首まできているのに、思い出すのはおっさんの顔ばかり。      ――ああ、幸せだ……。  こんなに、こんなにも幸せだ。幸せな思い出に包まれて、おっさんの姿を思い浮かべながら逝く。こんな幸せな終わりを迎えられるなんて、思ってもみなかった。私なんかが迎えていい終わり方じゃない。  そんなの、よくわかってる。  ――なのに……なのに、何で涙が出るんだろう……。
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