374人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
――暖かい。
凍えるような寒さの中にいた筈なのに、まるでお日様の下にいるように暖かい。死んでもなお意識があるなんて、思ってもみなかった。
「……キ……」
「……ユキ……」
「ユキ……起きてくれ」
しかも、おっさんの声まで聞こえるおまけ付きだ。
――ああ、幸せだ……。
そう思うのに、意識は中々無くならない。
「……ユキっ」
それどころか段々大きくクリアになっていく。
「約束しただろう」
「ユキ、頼むから……」
懇願するような言葉はあまりにリアルで、そこで初めて違和感を覚えた。
「そうだ、ユキ!」
「俺と生きてくれ」
「ユキ!」
そして。
「ユキッ! 目を開けるんだっ!」
耳元で叫ばれて、体が跳ねた。
最初に感じたのは光だ。
――ああ、明るい。
思うと同時に。
「ユキっ……良かった……」
視界いっぱいに開堂の顔が広がった。
「え……」
「良かった、本当に良かった……」
開堂の顔は見た事がない程に涙でぐしゃぐしゃだった。口の周りには無精髭が生え、よく見ると目の下には青黒いクマまでできている。でも、それ以上に気になるのは。
「生きてる……?」
「当たり前だっ!」
ユキが呆然と呟くと、開堂はその感触を確かめるように両手をユキの頬に伸ばした。開堂の瞳からは尚も涙が溢れ続け、ユキの頬を濡らしていく。
最初のコメントを投稿しよう!