三、

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 ――暖かい。  凍えるような寒さの中にいた筈なのに、まるでお日様の下にいるように暖かい。死んでもなお意識があるなんて、思ってもみなかった。 「……キ……」 「……ユキ……」 「ユキ……起きてくれ」  しかも、おっさんの声まで聞こえるおまけ付きだ。  ――ああ、幸せだ……。  そう思うのに、意識は中々無くならない。 「……ユキっ」  それどころか段々大きくクリアになっていく。 「約束しただろう」 「ユキ、頼むから……」  懇願するような言葉はあまりにリアルで、そこで初めて違和感を覚えた。 「そうだ、ユキ!」 「俺と生きてくれ」 「ユキ!」  そして。 「ユキッ! 目を開けるんだっ!」  耳元で叫ばれて、体が跳ねた。  最初に感じたのは光だ。  ――ああ、明るい。  思うと同時に。 「ユキっ……良かった……」  視界いっぱいに開堂の顔が広がった。 「え……」 「良かった、本当に良かった……」  開堂の顔は見た事がない程に涙でぐしゃぐしゃだった。口の周りには無精髭が生え、よく見ると目の下には青黒いクマまでできている。でも、それ以上に気になるのは。 「生きてる……?」 「当たり前だっ!」  ユキが呆然と呟くと、開堂はその感触を確かめるように両手をユキの頬に伸ばした。開堂の瞳からは尚も涙が溢れ続け、ユキの頬を濡らしていく。
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