三、

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「この事件を担当している警察庁の津郷歩佳警視よ」  そして警察手帳を出すと、ユキが見やすいように開堂がいるのとは反対側へ回り込む。 「あなたは身体活動の自由が損なわれ、生命の危機によって犯罪行為をせざるを得ない状況だったと事が証明された」 「どういう……」 「つまり、私達はあなたを逮捕ではなく保護します。落ち着いたら聞き取りはさせてもらうけど、罪に問われる事はありません。……もう大丈夫。辛かったよね、苦しかったよね。あなたは助かったのよ」  何を言われているのか、ユキには理解ができなかった。  ただわかるのは、今まで向けられた事が無いような優しくて泣きそうな眼差しを向けられているという事だけ。それだけなのに。 「ユキ、大丈夫か?」 「え……?」  開堂に拭われて初めて自分が泣いている事に気が付いた。早く止めないと、そう思うのに涙は次から次に零れ落ちて止まらない。 「どうしよ……」 「ユキ……」 「大丈夫、大丈夫よ」  二人はそんなユキを怒らなかった。開堂はいつまでも頭と頬を撫でてくれ、歩佳は左手を取ってさすってくれる。それがまた涙を溢れさせ、ようやく止まったのはだいぶ時間が経ってからの事だった。
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