三、

18/26

374人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
 ひとしきり泣いた後、今度はしゃっくりが止まらなくなった。 「ヒッ……ヒッ」 「ユキ、ほら」  開堂はそんなユキを抱き起こし、用意していた水をコップに移して飲ませてくれる。目の前で繰り広げられるやりとりに、歩佳は真顔で突っ込んだ。 「いや、コップ渡しなさいよ。何であんたが飲ませてるの」 「いいだろ別に!」 「はいはい。私から色々説明するから黙っててよ? まず、あなたが殺そうとしたボスはしぶとい事にまだ生きてる。あそこにいた奴らも一網打尽にしたから、意識が戻り次第逮捕して尋問していくわ。あ、逃げてる雑魚も今追ってるから」 「……はい」  ――殺せなかったんだ……。  苦しませてから死なせたくて、わざと急所を外した。その結果がこれだ。  ユキが俯くと、肩を抱く手に力がこもった。 「ユキ。あんな奴お前が殺す価値もない」 「そうよ? あいつらが生きているうちに刑務所から出る事はまずないわ。あいつらはきちんと法の下に裁かれる。あんな所で楽に殺してあげちゃダメ」  物騒な事を言っているのに二人の口調は優しい。諭すような言い方に、首は自然に縦に動いた。 「よし」 「じゃあ次。これからの事を相談しましょ。通常、保護する時には施設に入ってもらうんだけどね」  歩佳はそう言って、クリアファイルに入った数枚の書類を取り出す。でもユキに渡そうとしたところで。 「ユキ、俺と暮らそう。な?」  開堂がそれを遮った。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

374人が本棚に入れています
本棚に追加