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「口挟むのやめてくれない?」
「約束しただろう? 俺と来るって」
肩を支えていない方の手は甘い言葉と共に頬を撫でる。
「ガン無視? あんたほんとに私がどれだけ奔走したかわかってる?」
「ユキの部屋もある。ユキの好きな物を買い揃えていけばいい」
「あーはいはい、まだ無視するか。ユキちゃん、あのね。今あなたがされている事、完全にセクハラっていう犯罪だから。逮捕してって言ってくれたら、今とっつかまえてあげるわよ」
歩佳が冗談で言っているのか本気で言っているのかはわからない。確かなのは言葉の中に込められている怒気がユキではなく開堂に向いているという事。とても恋人の会話とは思えない。
「あの」
「何だ?」
「どうしたの?」
「おっさんの彼女さんじゃないの……?」
ユキが恐る恐る尋ねると。
『はあっ⁉』
二人の声はピタリと重なった。
「そんなわけないだろ⁉」
「そうよ! ありえないから! こんな馬鹿脳筋!」
「え……だって……」
「お前こそ少しは女らしくしたらどうだ。ユキ、俺は無責任に一緒に住もうなんて言わない。君の身元保証人になりたいんだ」
「え……」
「だから何なの? 光源氏にでもなりたいの⁉」
「今までの分まで幸せになってほしいだけだ!」
「それならウチに来ればいいじゃない!」
「俺の手で幸せにしたいんだよ!」
二人は戸惑うユキを挟む形で怒鳴り合う。確かに恋人同士ではなさそうだ。
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