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「おい⁉︎」 「いいから早くっ!」  ユキがもう一度強く言うと、開堂も心得たとばかりに素早くギアを入れた。車は勢いよくバックし始める。そして曲がり道で向きを変えたかと思うと、すごい速さでその場から走り去った。  向こうの車は追ってこない。見渡す限り、他に仲間もいなそうだ。  そこまで確認して、漸く座席に体を預けた。 「どうした?」  場にそぐわない心配そうな声に、思わず笑いそうになる。 「たまに取引成立に見せかけて無理矢理お金だけ奪おうって奴らもいるの。前殺されそうになった」 「はあっ⁉︎」 「まあたまにだから。向こうだっていちいちそんな事してたらすぐに取引相手がいなくなるから」  もっと危ない任務なんて山程ある。寧ろ、今日は新入りを連れて行かせるくらい簡単な取引だ。 「こんなので驚いてたら身が保たないよ」  ここはそういう世界。ユキはまた窓の外の世界に視線を移した。  車は再び高速道路に上がった。平日の昼下がりの高速はさほど混んでいない。行きと同じく、予定より少し早く帰れそうだ。  だけど高速に乗って暫くしたところで、車は突然向きを変えた。 「ちょっと!」  慌てて開堂を振り返ると。 「悪い悪い」  困ったような、でもどこか楽しそうな笑みを浮かべている。
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