三、

21/26

374人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
「……おっさんに、恋人は……?」 「いるわけないだろ」 「そーそ。仕事馬鹿脳筋馬鹿でたまの休みも弟妹に付き合うかトレーニングな奴に、恋人なんているわけない」  あそこで終わると思っていた人生を、望んでもいいのだろうか。終わったと思っていた夢のような時間の続きを、望んでもいいのだろうか。 「これから……」 「俺と生きてほしい」  この人の手を取ってもいいのだろうか。 「でも、ほら……私、ずっと犯罪組織にいたんだよ? たくさん、悪い事したんだよ?」 「ユキが好きでした事じゃないのはわかってる。俺の発言、何度も組織には言うなって止めてくれたよな? 組織にバレたら消されるような事何度も言ってるのに、ユキは絶対に組織に報告しなかった。ユキが本当は優しい子だってわかってる」  私なんかが幸せになってもいいのだろうか。 「でも……でもほら、私、戸籍もないし……学校も行った事なくて、漢字もほとんど読めないんだよ?」 「そんな事どうだっていい。ユキはどうしたいんだ?」  ――どうしたい?  そんな事、この人と出会うまで誰も聞いてくれなかった。望んだ事もなかった。でも、もし一度だけ我儘が許されるなら。夢見てもいいのなら。 「おっさんといたいっ……おっさんといたいよっ!」  もう呂律も回らなかった。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

374人が本棚に入れています
本棚に追加