三、

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「ユキ!」  ぼやけた視界が再び開堂の顔でいっぱいになる。そして次の瞬間には荒々しい感触と共に、しょっぱい味が口の中に広がった。  幸広との間に隙間なんてない。手は抱きかかえるように背と頭に回り、けして離そうとしない。  歩佳は呆れたように兄の頭を叩いた。 「やめんか!」 「何をするんだよ」 「そういう事は人が見てない所でやれ! あと、言っとくけど完全に絵面アウトだから!」 「結婚前提の同意の上だろうが!」  結婚。その言葉に驚いてしまうけど、それ以上に嬉しかった。  ――本当におっさんと生きていいんだ……。  嬉しくて、ただただ嬉しくて幸広の肩に顔を埋める。でも、ユキにとっては魔法のような言葉も、歩佳には違ったらしい。 「おっもっ! ユキちゃん? あのね、この世界にはもっといい男がたくさんいるのよ? あなたは若くて可愛いの。こんなおっさんの所に行く必要はないの。一度冷静になる時間を置いた方がいいわ」  まるで非難するような目を兄へと向けた。 「……一緒が、おっさんと一緒がいいです」 「ほら、ユキもそう言ってるだろ」 「兄貴は一回黙ってて。初めて助けてくれた人っていう刷り込みかもしれないわよ? うちの実家に来ない? 兄貴と会いたいならいつでも会えるし」
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