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その日からユキの生活はがらりと変わった。
取り調べは持ち出したUSBメモリーと幸広の証言の確認程度で、すぐに幸広の家へと移された。広々としたマンションは今まで過ごした牢獄のような部屋とはまるで違う。昼間は大きな窓から陽が差し込み、夜は照明が二人を照らしてくれる。眠るのだってふかふかなダブルベッドだし、キッチンに行けばいつだって水以外の飲み物もおやつや軽食も用意されている。
座り心地のいいソファーに柔らかいカーペット。いつも食事をするダイニングテーブルに、のんびりする時に飲み物やおつまみを置くローテーブル。全てが揃っているように見える家だけど、元は殺風景だったらしい。
「これ。ドレッサーだっけか? 買っていこう。どんなのがいい?」
「え、必要?」
「妹達は化粧品とかアクセサリー集めて並べるの好きみたいだぞ? 集めてみたらいい」
ユキのために一から買い揃えてくれた。
「ユキ君私に甘すぎ」
おっさんと呼ぶのは世間の目が怖いという事で、呼び方はユキ君に落ち着いた。名前が被ってわかりにくいかな、なんて思えば。
「もし今の名前に愛着がないなら、俺に新しい名前をつけさせてくれないか?」
幸広の一言によって新しい名前ができた。いけないクスリ代の代わりにされたからユキ、なんてつけ方じゃない。
「いいんだよ。あかりを甘やかすのは俺の特権だ」
もう二度と陽の当たらない場所になんて行かせない、明るい世界で生きていいんだと『あかり』という名前をもらった。
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