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番外編
もう手放せない。自分がしている行為が褒められたものでないのはわかっているが、この少女を手放す事は生涯できそうになかった。
初めて見た時は、何でこんな少女が犯罪組織にいるのか理解できなかった。化粧などしなくても美しい整った顔立ちに、一度も染めた事がなさそうな艶やかな黒髪。そして、見ている方がドキッとしてしまうような白い肌。犯罪組織ではなくモデル事務所ですとでも言われた方が納得する。
その少女の瞳は一切の感情を宿していなかった。
自分の下の妹くらいの年の子がそんな瞳をしている。気にならないわけがない。
最初に近づこうと考えた時には、組織の情報を聞き出すためが半分、少女への興味が半分だった。
だけどどうだろう。犯罪行為を無表情でこなす少女が、自分のした事でわずかに表情を変えた瞬間、自分の中の感情が一気に動いた。
差し入れに驚き、星空を「きれい」と仰ぐその表情をもっと見てみたい。こんな小さな表情の変化ではなく、もっと大きな変化を見てみたい。そう思った。
だけどそれと同時に、絶対に組織も潰さなければならない。
俺を一人前の公安として育ててくれた上司は、たった一度の失敗で警察を辞めざるを得なくなった。上司はそういうものだと笑っていたが、許せなかった。
事件を起こした奴を何としてでも見つけて償わせる。そのために誰にも相談せず捜査を続け、組織への糸口を見つけて潜入した。
殺しの命令には焦ったが、相手は運よく政府の要人。今までの伝手と歩佳経由でいくらでも繋ぎはとれる。殺害報道と落ち着くまでの雲隠れを了承させるまで時間はそんなにかからなかった。
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