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そして少女の境遇を知った時、俺は狂喜した。これで少女を救う大義名分ができた。
すぐに歩佳に連絡をとり、指定されたレストランで潜入捜査の全てをぶちまけた。しこたま怒られたが、そんな事どうでもいい。警察は俺が知り得た情報で犯罪組織を一網打尽にする。俺は少女を安全に保護する。完璧な協力関係だ。
――あと少し、もう少しだ。
――もう少しでこれを当たり前にしてやれる。
初めての水族館に浮かれる少女に、心の中で何度も語りかけた。
クラゲの水槽に驚き、サンゴ礁の魚に見とれ、イルカのショーに目を輝かせる少女を抱きしめたくて仕方なかった。彼女の初めてを与えているのが己である事が嬉しかった。
USBメモリーを受け取った時には、少女も俺と共に組織から離れたいのだと、信用されたのだと全身の血が沸騰するような想いだった。
でも、違った。
『ボス! 大丈夫ですかっ⁉』
『ユキがボスを撃ちやがった!』
『あいつが裏切っただとっ⁉』
あんな気持ちは二度と味わいたくない。
警察を押しのけて助け出した少女は、呼吸をしていなかった。人工呼吸で水を吐かせた後も、今までの心労からか中々目を覚まさない。その間にも肌はどんどん青白くなっていく。
――どうして。
――約束したのに、そこまで俺といたくなかったのか。
何故様子がおかしい少女を一人で帰したのか、自分を責めた。少女がもう二度と目を覚まさないのではないかと恐ろしくて仕方なかった。
少女に幸せになってほしい。
今までの分まで、明るい世界で生きてほしい。
心からそう思った。でも同時にもう一つの感情にも気が付いた。
もう一度少女に触れたい。
もう一度少女を抱きしめたい。
もう一度少女に口づけたい。
もう一度少女を抱きたい。
自分が少女を幸せにしたい。
少女に触れるのは自分だけであってほしい。
少女を愛している。
一度認めてしまえば、もうそこまで。その感情は自分の中で抑えられない程に膨れ上がっていた。
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