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「あかりちゃんの母親、多分この人で確定。幹部共の証言と組織の名簿とも一致するし、当時赤ん坊の泣き声がしたっていう証言も複数出たわ」
「そうか」
「……本当に言わないつもり?」
「言ったところでどうなるって言うんだ。辛い過去を蒸し返すだけだろ?」
「そうだけど……」
捜査によってあかりの母親が判明した。案の定出生届すら出ていなかったが、病院の受診記録からあかりの誕生日もわかった。
母親の事はどうでもいい。母親は数年前に薬物で死んでいた。死人に口なし。既に死んだ二度と会う事のない存在には、あかりも興味すら抱かないだろう。
だけど問題は誕生日だ。若いだろうとは思っていた。想定はしていたが、あかりは未成年だ。本当の年齢を知った時、あかりはどう感じるだろうか。
俺との年齢差も一回りじゃきかない。政府の支援を使えば学校に行く事もできるし、そうなれば世界が大きく広がるだろう。
歩佳が言った刷り込みはまさにその通りだ。あかりには他に優しくしてくれる男なんていなかった。幼い頃から組織に繋がれ、ようやく任務で外に出れるようになっても、そこに楽しい事なんて一つもない。
そんな中に俺が現れた。
あかりは世界が広い事をわかっていない。あかりには無限の選択肢がある事をわかっていない。あかりならもっと年齢が近い男も、もっと顔がいい男も、もっと条件がいい男もいくらでも選べる事をわかっていない。
言うにはまだ早い。
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