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あかりには家事能力が一切ない。というより、米を炊くという行為そのものすら知らない。食事は与えられるコンビニの握り飯やパン、いい時でカップヌードル。服は渡されたものを着て、風呂はシャワーのみ。部屋には簡素な作りのベッドと、紙袋に入った数枚ずつの服以外何もなかった。
だから知りようがないのだ。
「全部俺がやるから、あかりは待っていてくれたらいい」
俺が囁くと、あかりはすまなそうにしながらもそれに従った。お陰で今も風呂のいれ方も洗濯機の使い方も知らない。今後も教えるつもりはない。
「ユキ君が何日も帰ってこなかったら、私野垂れ死んじゃうね」
あかりは冗談めかして笑ったが、そうなってくれたらいい。勿論、帰らないつもりもあかりを死なせるつもりもないが、俺が一生面倒を見るから、あかりは何もできないままでいい。
俺なしでは生きていけなくなってしまえばいい。
すぐに家族と会わせたのだってそのためだ。
あかりが事あるごとに家族連れを見ていた事には気づいていた。だからこそ早いうちから家族と会わせた。予想通り大らかな母さんは新しい娘を可愛がってくれたし、弟妹達もあっという間に順応してしまった。唯一父さんだけは俺の囲むような行動に顔を顰めたが、肝心のあかりが嫌がっていないんだ。何も言えない。
あかりは実家に行くのが楽しみで仕方がないらしい。無条件で可愛がってくれる存在、手作りの家庭料理、賑やかな食卓。あかりにとっては初めて尽くし。
俺から離れるという事は、この家族とも離れるという事だ。
あかりに世界が見えてしまった時に俺と離れるなんて選択肢が生まれないように。もっともっと甘やかして、もっともっと幸せにする。
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