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かなめは、どうして断言できるのだろうと疑わしく思ったが、彼の昼間とはどこか違った雰囲気に尻込みして、結局笑って誤魔化すだけだった。 「植山様は紳士的な方なので、私も社長も安心していました。それにセプテンバーがとても幸せそうだったから、私はそれを信じていたんです。不用心と言われれば、確かにそのとおりですけれども…」 「そうですか…犬にはかないませんね」 そのつぶやきは、やや不貞腐れたような響きを帯びていた。 思わずえっ、と声を上げたかなめを、隣を歩く植山が見下ろしていた。 思いがけずごく真剣なその面持ちに、かなめはどきりとしてつい目を泳がせた。 「お世辞を真に受けて、気を良くしたわけじゃありませんけど…」 そんな彼女の反応を意に介さず、植山は続ける。 「つまり言いたかったのは、僕はただ、僕が留守の間、代わりに村井さんがセプテンバーと良い時間を過ごしてくれればそれでいいんです。こんな娯楽のない場所でも、あなたにとってプラスになる何かがあるなら。こっちはただでさえ、ボロ屋に閉じ込めてしまって心苦しいのが本音ですから」 まっすぐに降り注ぐその言葉に、かなめはなぜか頭をガンと殴られたような衝撃を受けた。 そして条件反射のように、目頭にじわじわと熱いものが込み上がるのを感じた。 「どうかされました?」 失言をしたのではと心配になったのか、植山が柄にもなく声音を曇らせ、こちらの顔を軽く覗き込んだ。 「ああ…いいえ。何でもありません」 かなめは咄嗟に前髪を払うふりをして目元を隠し、何とか涙を引っ込めてから、ぎこちなく躊躇いがちな笑顔を植山に向けた。 「すごくお気遣いいただいてるなと思って。かえって申し訳ない気持ちもあるんですが…すみません、あの、ありがとうございます」 「良かった、そういうことなら」 暗さのためか、植山は気付かなかったようだった。 「今日はお疲れでしょうから、早めに風呂入って休んでください。僕は明日午前中には出ますけど、セプテンバーのことよろしくお願いします」 「はい、もちろんです」 可能な限り明るく答えて、まだ少しぼやける目をこっそりと拭った。 この場所だから、ではないのかもしれない。 植山の発する優しい言葉を聴いていると、そもそも彼自身が本当は実在しない、自分の脳が都合よく作り出したただのイメージなのではないかとすら思えてくる。 彼の言葉や態度がいとも簡単に心の隙間に入り込んで来る、そのなし崩しな感覚に羞恥や自己嫌悪にも似た居心地の悪さを抱き、かなめはたまらず目を伏せた。 目指す家はまだ少し遠く、かすかに湿り気を帯びたアスファルトの道を、白い月がぼんやりと照らし出していた。 ***
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