Eyes ーアイズー

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 数週間後、退院を許された俺は、戦後の街をひとり歩いていた。  入院中のリハビリによって、機械となった顔の違和感には大分慣れた。だが、痛めつけられた身体はまだ完全ではなく、俺は杖に頼りながら、がれきの山とかろうじて残った建物が夕暮れの空高くそびえる惑星の表面をよたよたと進む。傍を流れる人波は、皆疲れ切った表情だ。    それでも十数年にわたる惑星間抗争の終結は、喜ばしいことには違いない。俺も傷痍軍人としてだが、細々とこの大地で余生を過ごすのだろう。それが明るい未来であるかはまるで分からないが、少なくとも今までの戦火の中での日々よりはマシに違いない。  そんなことを考えていたものだから、俺は多少ぼけっとしていたのかもしれない。いきなり、ドン、と右肩に衝撃を覚え俺はよろけた。   見れば戦災孤児らしい子どもが勢いよく駆けていく。彼は食糧の配給場所を大声で仲間に知らせながら走っている。その途端、街角のあちこちから子ども達が飛び出てきて、彼の後を追って走り出したのだからたまらない。手から杖が離れ、俺はその場にいささか派手に横転した。それも悪いことに、顔から地面に突っ込むかたちで。    その瞬間、なにかが外れ転がる音がし、次いで視界に異変が起こった。義眼が外れたのだ。俺は慌てて義眼を拾わねば、と立ち上がろうとしたが、身体が言うことを聞かない。  そのときだ。誰かが俺の目の前に手を差し出す気配がした。 「大丈夫ですか?軍人さん」  見ると、傍で鉄くずを集めていた少女が駆け寄ってきて、俺を抱き起こそうとしていた。生きている左目だけでははっきり分からなかったが、16.7才とおぼしき黒髪の少女だ。俺はその手を借りて、右目の穴を片手で覆いつつなんとか身体を起こし、地表に目を走らせたが、落としてしまった義眼らしき物体は見つからない。 「……ああ、大丈夫だ……」  少女にそう答えつつも、俺の心はしまったな、という気持ちで満ち満ちている。しかし迫る夕闇のなか、左目の視力だけで、どこかに転がる義眼を探すのは、無理だと俺は悟った。  ……仕方ない。  俺は少女に礼も言わずに、おぼつかぬ視界と足取りで、その場を後にした。
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