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「義眼を落としただって?そりゃまずい、イヴァン」
それから1週間後の通院日。診察室にミハイルの声が木霊する。
「そうはいっても、事故だったんだ。仕方ないだろう」
俺は眼帯をまき直しながらそう答えたが、ミハイルはそう簡単に納得しなかった。彼は声を落としつつも、俺を睨みつつこう続けた。
「あのな、あの義眼は我が国、ことに我が軍の科学技術の最たるものなんだ。要するにそれは、軍事機密も同じってことだ。そんじょそこらに落としておいて良い物じゃないんだよ」
「……そんな大層なものなのか?」
「そうだ。どこに落としたか、アテはないのか??」
俺の脳裏に、あの少女の顔が過ぎった。
が、俺は即座に嘘をついてしまった。なぜか。なぜだか、そうしてしまった。
「分からん。翌日、転んだ場所を探したが、それらしものは無かった」
だがミハイルは追及の手を緩めない。
「どこで転んだんだ」
「ウィリアム街。サウス・ストリートとイースト・ストリートが交差する辺りだ」
「あの戦災孤児がうろうろしてる辺りか。やつらが見つけたら厄介だな」
俺はドキリとした。
「……奴らは食べ物にしか興味が無いさ」
「どうかな。珍しがってジャンク屋に高く売りつけたらどうする。あの界隈のジャンク屋は相応の目利きだからな。価値に気づくかもしれん。破片だけでも見つけ出さねば。一応、憲兵に捜索させるよう手配するからな」
……俺は黙って頷くしかなかった。
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