Eyes ーアイズー

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 俺はそれからというものの、あの少女が気になって仕方なくなった。  名前も知らない、黒髪の少女。鉄くず拾いの娘。  それ位しか面識はないが、あの子の指には、間違いなくいまも俺の義眼が嵌まっている。そうとも知らずに。  すでに憲兵にいたら、どうしようか。そう思えば思うほどに気が気でない。憲兵は、軍事機密が絡んでいると知れば、女子どもにも容赦しないだろう。  まさかとは思うが、指を切り取ってでも無理矢理「指輪」を回収していたら……いや、それよりもっと悪く、命を奪ってでも……ということもありうる。  考えれば考えるほど俺の気は滅入る。  一時は忘れようとして、やたら酒に手を伸ばしもした。だが、あの少女の輝く瞳が忘れられなかった。あの子に何の罪もない。それに、義眼でもただの石でも、あの子にはどうでも良いはずだ。ただ美しいと思ったものを美しいと、信じ、自分の掌に包んで欲しい。それすら叶わないような時代を長く作ってしまったのは、他でもない、俺ら大人達の責任なのだから。  ……3日後、俺は酒瓶から手を離し、顔に眼帯を付け直すと、杖を片手に外に出た。足は自然とウィリアム街に向かっていた。  ……が、ふとあることを思いつき、俺はアパートにいったん戻ると、ありったけの札束をポケットに突っ込み、足の方角を、商業地であるエドワード街に変えた。
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