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華やいだエドワード街で買い物をすませると、俺は漸くウィリアム街に身体を向けた。夕暮れが近づいていた。できるだけ早く、早くと杖に力を借りながら、歩を進める。
やけに気持ちが焦っていた。この3日間俺はなにをやっていたんだ、と後悔の念が脳裏を過ぎる。だから、できるだけ、できるだけ、早く。思うように動かぬ身体にもどかしさを感じながら、俺は必死に宵闇迫る地表を歩いた。
ウィリアム街に到着すると、俺はまっさきに少女の姿を探した。
彼女は、いつもと同じ場所で鉄くずを拾っていた。指先には薄いブルーの色彩が微かに光っている。
……あぁ、よかった。無事だった。
と、思ったそのとき、俺は背後に気配を感じた。けっして子どもでは無い、殺気立った、何ものかの気配。
……憲兵だ。
俺としたことが、付けられていたか。
俺は少女に走り寄った。
彼女が驚き、何か口にしようとする前に、俺は彼女の手を引くと、じめじめとした仄暗い路地に少女を引っ張り込んだ。
「軍人さん……!どう……」
「………しっ!!」
俺は彼女の口を手で塞ぐと、追ってきた憲兵が路地に踏み込むタイミングを狙って、渾身の力で杖を憲兵の頭上に振り下ろした。
「ぐっ!!」
憲兵は不意を突かれ、たまらず路上に転がり失神した。
そして、俺は息を整えながら、何事かと震えている少女に向き合うと、むんずとその華奢な手を掴み、指先から彼女の「指輪」を外すと、倒れている憲兵に向けて放った。
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