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そのじゅういち:熱い肉まんと冷たいお茶
毎度の放課後。
ラスは校舎の近くに新しく出来た惣菜屋で買ってきた肉まんを持ってリシェとスティレンが居る屋上へと駆け込んでいた。
「先輩!」
ラスがリシェを呼ぶ際に使う先輩呼びにはもうすっかり慣れてしまった。最初だけ違和感があったが、ひたすらそう呼び続けているのを聞いてきた為か定着してしまったようだ。
金網から下の景色を眺めていたスティレンは「どこに行ってたのさ?」と問う。彼の明るめの茶系の髪が夕焼けに染まり、金色にも見えてくる。
ラスは満面の笑みで紙袋を突き出す。
「近くの店でお惣菜屋さん出来たでしょ。授業が終わった瞬間ダッシュで買って来たんだ、一応予約したけどね。あらかじめ先輩には放課後屋上で待ってて下さいねって伝えたし」
「肉まんくれるって言ってたからな」
何故か得意げなリシェ。
ラスはにっこりと微笑むと、紙袋を開けて個別に分けられた大きな肉まんをリシェに手渡す。中身を初めて目の当たりにした彼はそれを受け取ると「デカいな」と感想を述べた。
かなり熱いのか、一瞬両手の上で軽く肉まんが舞い上がる。
「てか、ラス。あんたリシェに対して甘過ぎない?あまり優しくしてやるとつけ上がるよ」
あまりにも親切が過ぎる、とチクリと刺すスティレンだったが、ラスから同じ肉まんを手渡されて満更でもない顔をした。
「まぁ、くれるんなら貰ってあげてもいいけど」
全く素直ではないスティレン。
「正直に嬉しいって言えばいいのに」
リシェは底のフィルムを剥がすと、すぐに食いついた。
「熱い」
どうやら作りたてだったようだ。
熱い肉汁が口内に押しかけてくるが、美味しい以前にかなり熱い。リシェはうぅうと呻きながら肉まんを頬張っている。
「ふふ、先輩。やけどしちゃいますよ。ゆっくり食べないと」
食いつく様も可愛いと言わんばかりにラスはデレデレしそうになってしまう。
「お茶が飲みたくなるじゃない。買って来ようっと」
生徒用に屋上には自販機が備えられていた。スティレンは自分だけお茶を買うとすぐに戻ってくる。
「やっぱりお茶が一番いいよねぇ」
ペットボトルの蓋を開け、彼は一口飲み込んだ。
「お前、自分だけ買うのか」
熱さではふはふとしながら、リシェは彼が買って来たお茶を奪い飲み込む。あまりの熱さで一刻も早く冷たいものが飲みたかったようだ。
いきなり買ったものを奪われたスティレンは「ちょっと!!」と激昂する。
「何勝手に人様のお茶を飲んでるのさ!!誰がいいって言った!?」
「やけどする所だったんだ」
お茶を飲んだ事によって口内の危険から逃れる事が出来たので、ようやく冷静さを取り戻すリシェは悪びれずに言いのけた。
「いきなり食いつくからでしょ!この野蛮人!少しは待つ事を学んだらどう!?」
野蛮人扱いも相当酷い言葉だが、買って来たばかりのものをいきなり半分も飲まれては怒りたくもなるかもしれない。ラスはまぁまぁとスティレンを落ち着かせながらそのペットボトルのお茶に手をかけた。
何て品性の欠片も無い奴だよ、と怒るスティレン。
「危なかったみたいだし、先輩もやけどから救われたんだ。人助けだと思えば」
「自分の不注意じゃないのさ…って何であんたも勝手に飲んでるの!?もう、自分のは自分で買ってよね!!」
「はぁ、美味しい。先輩と間接キス…嬉しい…」
上機嫌でそう言う相手に、ドン引きするスティレンは「キモ過ぎない?」と呆れる。
結局、お茶はもう半分以下にまで減っていた。
「てか、俺のお茶がもう無いじゃない!それあげるから新しいの買ってきてよ!!別にいいでしょ、リシェと間接キスしたんだから!俺は新しいのが欲しいの!買え!!」
「えぇええ…まだ残ってるし。てか、肉まんは俺が買ったのに」
「肉まんはあんたが勝手に買ってきたんじゃない!俺は頼んでないよ!早く新しいお茶を買え!!」
流石に納得いかない様子だ。最後は命令と化す。
ようやく冷めてきた肉まんをもぐもぐと食べ始めるリシェは反省するどころかうるさい奴だなと呟いていた。
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