そのじゅうに:芋

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そのじゅうに:芋

 別の教室から自分達の教室へと戻る最中、リシェは背後から突然声をかけられた。同行するスティレンは不思議そうな面持ちでリシェ同様振り返る。  自分達の制服のネクタイの色とは違う色なので明らかに上級生。  二年生は水色、一年生は赤。  窮屈なのが嫌いな生徒は一応持ち歩いてはいるものの、装着しない者も多かった。それは大切な行事等を除いては、個人の自由に任されていた。  リシェの場合、ネクタイをラスが勝手に持ち出す場合もあり、慣れた様子で着用しない時もある。大抵は口うるさい先輩の視線を恐れて、下級生はきちんと着用していた。  相手方の生徒は緑色のタイの色をしていた。 「ちょっとリシェ」  明らかな三年生相手に何をしでかしたのかと、スティレンはリシェの体を腕で小突いた。 「あんた何した訳?」  あまりにも生意気過ぎるから目を付けられたんじゃないの、と面倒そうに小さく問う。しかしリシェはぶるぶると首を振った。  見た所全然顔も合わせた事も無い面子だ。 「知らないぞ」  二人でそう言い合っていると、数人居るうちの一人が割って入ってきた。自分達より体が大きな上級生を見上げ、内心うわぁああと叫び声を上げながら「何ですか」と口を開く。 「あんたらか、最近転校してきたのは」  外見的にも模範的とは言い難い上級生。  スティレンは警戒しながら「そうだけど」と返した。 「てか、何なのさ?顔を合わせた事も無いと思うんだけど」  お互い牽制しあうような空気が周囲に流れていく。  他の上級生もこちらを舐めるように見ながら、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。 「一年に風変わりなのが入ったって聞いたからどんなもんか気になってたもんでよ…なるほど、こういう系統か」 「やけに目立ってるっていう話だったしな」  自分達の知らない所でおかしげな噂が流れているのだろうか。  リシェもスティレン同様に警戒しつつ「それで何の用なんだ?」と問う。どう考えても上級生に言うような言葉遣いではなかったが、それはラスのせいだろう。  相手方はニヤニヤしながら二人に対し、言葉遣いがなってないなとちくりと嫌味を言った。 「外見と中身が伴って無いな。先輩方に対する礼儀っていうのを学んだ方がいいんじゃないか?」  その発言に対し、リシェはムッとした。 「いきなり話しかけてきたくせに、礼儀だのなんだのって吹っかけてくるのか?言いがかりにも程があるぞ」  加減も知らないリシェの発言に、横に居たスティレンは「馬鹿なのあんたは?」と小さく叱咤した。 「仮にも先輩方でしょ、何普通に喋ってんだよ」  少しは控えめになる事を覚えな、と注意する。  だがリシェは面倒そうに溜息を吐いた。 「へぇ。そんな口の聞き方をしますか」  想像した通り、彼らは生意気な口をきくリシェを見下ろしながら迫ってくる。うわぁ、とスティレンは嫌そうな表情をした。明らかに喧嘩を吹っかけるようなリシェに、少しだけ苛立ったのだろう。  生意気過ぎると捉えられたかもしれない。  前に出ていた上級生はリシェの腕をぐいっと掴むと、「ちょっと付き合え」と強引に引っ張った。 「ちょ…!!何してくれてるのさ!!」  思わずスティレンは声を荒げる。すると相手は不穏そうな笑みを浮かべながら大丈夫だって、と言った。  仲間の上級生も似たように笑みを見せていて、どう考えても危険な雰囲気を醸し出している。 「ちょっと借りるだけだからよ」  まさかこの学校にこういう生徒が居るとは思わなかったスティレンは、ちょっと待ってよと反論する。 「あんたらリシェをどうするつもりさ!」  これはいけない、とスティレンは内心焦った。ヤキを入れられるとかそれ系統の事をされるかもしれない。 「大丈夫だって。この可愛い顔を傷付けるような事はしねぇからよ…ちょっと来て欲しい場所があるってだけで」 「無事に返してやるからよ」  リシェは仏頂面のままで彼らを見上げていた。 「ちょっとリシェ!あんたも反抗とか」  しかしリシェはスティレンに対し、大丈夫だろとだけ言う。  物分かりがいいリシェに、相手方は「そうそう」と笑った。 「素直に従うのが一番いいぞぉ」 「んじゃ行こうか」  えぇええ、嘘だろ…とスティレンは愕然とする。ボコボコに殴られる可能性だってあるのにと。  連れられて行く従兄弟に、スティレンはまずいと周囲を見回した。先生方に報告しないと、と柄にも無く慌てる。  連れ出されるリシェが遠ざかる中、彼は職員室目指して走り始めた。  職員室に行ったものの、次の授業の時間の鐘が鳴り、加勢を求めにくい状況になっていた。  仕方無くリシェが戻ってくるのを教室内でひたすら待っていると、結局彼は次の休み時間に戻って来る。 「リシェ!!何してたのさ!」  至って普通に彼は戻って来た。そして手には何故か芋が入った袋。スティレンが怪訝そうにその袋の中身を覗き込んだ後、はい?と言いたげに問う。 「何これ?」 「芋」 「は?」 「芋を焼いてきた」  心配していただけに、芋を持って戻って来た事が不思議だ。 「何で?」 「いや…学校の裏側で芋を焼いてたから一緒に食って来た」  ますます意味が分からない。脱力感に襲われながら、スティレンはそれだけ?と聞く。 「うん。それだけ」 「何なの?まさか芋を一緒に焼く為に連れて行かれたって事?」  温まった芋の袋を手にしたまま、リシェも困惑した様子で「そうらしい」と頷いた。  あれだけ心配したのにと怒りが込み上げる。そして彼は袋の中の芋の袋にガッと手を突っ込むと、一本強奪した。 「人が心配してやったのに!!何芋焼いて食ってるんだよ、信じられない!!本当に意味が分かんない!!」  ばきっと割ると、一気に頬張り始める。  呑気なリシェはそれを見ながら、いい食いっぷりだなと呟いた。
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