そのじゅうさん:スマートなお誘い

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そのじゅうさん:スマートなお誘い

「ハグの効果でストレス解消になるらしいです」  突然言い出すラスの言葉に、またきたよとスティレンは鬱陶しそうな顔を隠しもせず剥き出しにしていた。  リシェは同級生から貰ったスルメに夢中になっている。 「先輩、聞いてます?」  折角豆知識を披露したというのに、肝心のリシェはラスの話を全く聞いてもいなかった。堅いスルメにひたすら没頭し続けている。 「あんたがハグしたい相手はずっとスルメに夢中だよ」 「先輩…」  顔に似合わない事をなぜ好んでやってのけるのだろう。 「本当、あんたはリシェに関してはとにかく下心剥き出しで困るよ。俺がこっちに転入してきて正解だったね」  スティレンはリシェに近付くラスのネクタイに手をかけ、ぐいっと引っ張る。うわ、と前のめりになる彼を、スティレンは見下す様な目を向けながら「言っとくけどね」と忠告した。 「こいつは底抜けに根暗で、なーんの魅力も無いけど俺の二番目位にマシな顔だからね。あんたの気持ちも分からなくもないさ。でもこの俺が居る限りは無駄に手出しはさせないからね」  その間もリシェはスルメに悪戦苦闘していた。  本来なら炙った方が美味いと言われたので炙ってみたいのだが、いかんせん火を扱えない。流石にライターを持ち歩く訳にもいかないので、ずっと噛んでいた。 「マヨネーズが欲しい」  味を噛み締めながら彼は呟く。 「そ、そんな」  ラスは威圧されながらも困惑する。 「俺は先輩が好きだしスティレンがどう言おうと止めないよ」 「…ふん、まぁ気持ちは分かるさ。他人の気持ちをどうこう言うつもりもないけどね。ただ、あんたは下心が見え見えなんだよねえ」  そこまでいやらしい顔でもしていたのだろうか。  ラスは思わず自分の顔に両手を当ててぐねぐねと軽くマッサージした。別にニヤニヤしながらハグしてくれと言ったつもりは無いし、涎も垂らしていない。  下心剥き出し、と突っ込まれても至って普通に会話しているつもりだったのだが。 「じゃあさ、どう言えば自然に発言出来るんだよ?俺別にいやらしい笑いもしてないしさぁ。涎も垂らして無いし鼻息荒くして喋ってないよ」  むしろどうしたらいいのかスティレンの口から聞いてみたい。  いやらしくない誘い方があるのなら。 「え?俺に聞く訳…」  その間もリシェはひたすらスルメを食べていた。  なかなか無くならない。 「そうだよ、下心の無い言い方って言うならさぁ。ごく自然な誘い方を知ってるんだろ?先輩相手に誘ってみてよ」  参考にするからさ、と続ける。  スティレンはスルメに夢中になっている従兄弟をちらりと見た後、面倒そうに「何で俺が」とぶつくさ言いながら眉を寄せた。 「そこまで俺に駄目出しする位だから、もっとスマートな言い方を知ってるんだろ?」 「…ふん、馬鹿にしないでくれる?俺みたいな上品で正直な人間にご教授願うなんて、あんたも大したもんじゃない。俺のように美しくて賢いタイプはね、ストレートに直球勝負で誘うもんさ」  へぇ、とラスは興味深そうな様子を見せる。 「じゃあやってみてよ。スマートなお誘いっていうのをさぁ」  売り言葉に買い言葉で、スティレンは強気に鼻を鳴らしながら「見てなよ」と意気込んだ。  そしてまだスルメと戦っているリシェに目を向ける。 「リシェ」 「ん?何だ」  リシェはそれまでの二人の会話を全く聞いていなかったらしく、スルメを噛みながら顔を上げた。  スティレンはいつもの様子で話を続ける。 「俺とエッチしな」  その瞬間、リシェは食べていたスルメを口から離すと、スティレンの顔面目掛けてそれをビターン!!と投げつけた。 「死ね!!」  突然の暴言を受けた瞬間に体が動いたのだろう。暴言に暴言で返し、更に暴力を追加した。 「いったぁあああああ!!何するのさリシェのくせに!!」  ラスは目の前で起きた出来事に頭の中が追いつかず、ぽかんと口を開けたまま突っ立っていた。  リシェは苛々とした表情で何も言わず立ち去ってしまう。  ようやく頭が追い付いたラスは、つい「えぇええ…」と不満気な顔を見せた。 「スマートっていうか、そのまんまじゃんスティレン…」  思わずドン引きしてしまった。流石にそれは無いだろう、と。 「素直に言ってやっただけで何が不満なのさ!?」  スルメを浴びた顔を押さえながら、彼は顔を真っ赤にして怒りだす。  直球勝負どころか欲望剥き出しだ。全く上品でもなかった。 「いったいし、何なのあれ!?信じられない!!」  俺の美しい顔に!と鏡を見て傷が無いかを確認するスティレンに、ラスは俺より酷いじゃん…と呆れていた。
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