そのに:モブキャラ気質

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そのに:モブキャラ気質

 リシェの頬は柔らかい。  ラスは優しく彼の頬を摘んだ。むにゅりと軽く引っ張られ、リシェは不愉快そうにこちらを見上げる。 「何だ」 「いや…先輩は柔らかいなあって」  離せ、とそのままリシェは身を離す。 「ちっ」  何故か舌打ちする美少年。彼はその顔に全く似合わない事をしがちだった。もう少し控えめにしたら更に魅力的なのになあとラスは残念に思う。  それもリシェの個性なのだが、何だか勿体無い気がするのだ。 「先輩はどちらかと言えば豪快な方ですね」 「?…どういう意味だ?」 「性格が…」  元々剣士なのだから、それに沿ったような性格が反映されているのかもしれない。以前暗闇の中で矢文を飛ばしてきたロシュに対し、魔改造された水鉄砲を用いてピンポイントで逆襲したのを思い出していた。  矢文が来た方向を瞬時に察知出来たのもそのせいなのだろう。 「どんな性格が良いと思ったんだ」 「先輩は先輩のままでいいと思うんだけど…」  もう少し可愛げがあればなあと続ける。  リシェの表情のバリエーションは怒るか泣くか、悲しむか無表情が大半だ。…たまに笑顔も見せるが。  表情をフルに表に出さないと、折角の恵まれた容姿が勿体無い気がする。 「お前は同じ男に可愛げを見せられたら嬉しいと思うのか?俺は逆に薄気味悪いとすら思うけどな。何悲しくて愛想振り撒かなきゃならないんだ。そんな事をして何の得がある?」  ギリギリと顔を引きつらせながらラスに食ってかかる。  何故イメージを崩す表情をしてしまうのか。実に勿体無い。 「得って言うより、サキト君までいかない程度の可愛げがあってもいいと思うんですよ…」 「無理だ」  ばっさりと切り捨てる。確かに、サキトまで飛び抜け過ぎるのも問題有りかもしれない。  ラスはううんと唸った。 「スティレンの方が真似しやすいですか?」  親戚の間柄ならば近いかもしれない。別の意味で強烈だが。 「何で真似しなきゃならない?言っておくがスティレンは可愛げなんか全く無いぞ」  …確かに。  スティレンは発言に可愛げの要素は全く無い。あるのは底無しの傲慢さだけだ。同じように美少年タイプでも、普段の発言や行いのせいで色々台無しになるものだなと改めて思う。  こうしてみれば、非常に残念な美少年ばかりではないか。 「勿体無いなぁ…」  ラスはかくんと頭を垂れた。  女子が喜びそうな美少年像と殆ど合致しない。 「少女漫画的なキャラはなかなか居ないもんですね…」 「居る訳無いだろう」  ふいっとリシェは顔を背け、前回クラスメイトから貰ったマタンゴのフィギュア型の貯金箱の手入れを始める。貯金箱としてではなく、きちんとケースに入れている事から飾り物として扱っているようだ。  しかも大層気に入ったらしい。  リシェはそれを丁寧に拭き上げつつ、「実際そんなのが居てみろ」と続ける。 「スポーツ万能で頭が良くて、家も裕福でおまけに性格も良い。人当たりも最高。誰からも好かれて皆から頼られる。そんな奴が居たら他の奴らなんか全員モブキャラじゃないか。ふざけやがって。嫌味か?生まれながらの主人公か?どうせ異世界とかにワープしてもめちゃくちゃチート使いで美少女キャラにモテモテなんだろうな?」 「…先輩…?」  一体彼は何の話をしているのだろうか。  リシェは一人でぷんすかと怒りながらマタンゴを拭く。 「先輩、最近見た本ってそれ系ですか?」 「そうだ」  どうやら本の主人公に嫉妬しているらしい。そして感情移入してしまったようだ。その口振りからして主人公キャラにでは無く、脇役的な立場に。  普通なら主人公キャラにいきそうなものだが。 「先輩」 「何だ?」  完璧過ぎる主人公にコンプレックスを刺激されてしまったのだろうか。  気持ちは分からなくも無いが、結局はフィクションの世界だ。 「作り話のキャラにそんなに目くじら立てなくても」 「やかましい」  ラスの言葉を遮るようにぴしゃりと止めると、彼はひたすらマタンゴを拭きながら呟く。 「俺だって美少女エルフとかにちやほやされたいのに…くそっ」 「…そうですか…」  それはあまりリシェの口からは聞いた事の無い、いかにも健全男子らしい言葉だった。
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