残り声

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いつの間にやら朝日が僕を馬鹿にするかのように登っている。 この臆病者。そういうように差し込んできた眩しい光に目を細めながら僕は昨夜のことを振り返っていた―― 『だから、この文はこういうの意味なんだって』 目をぱちくりしながら、こいつはそう説明した僕を見つめる。 『なーなー、そんなことよりゲームしよう?』 テスト勉強をしようと家に誘い込んでおいてこのざまである。なんだこいつは。僕は呆れたような目でそいつのおでこをこつんと叩く。 いてーと口をすぼめてしょんぼりした顔のままノートに目を戻す。 遊びたい目的で誘ったのはわかっていたが少しはテスト勉強もしないとこいつは単位を落としかねん。僕も遊びたいのはやまやまだが、ここは心を鬼にしてっと思ったところでそいつはまた僕をじっと見つめてきた。 『そんな目をしてもゲームは―』 『あんな、俺、好きやねん。』 今度はこちらが目をぱちくりする番だった。今こいつ何を言ったんだ。 『俺、お前のこと好きやねん。』 聞き違いでは無い。確かにそういった。 『え、それは。』 『LOVEの好き。』 その後のことはじつはさほど覚えていない。取り乱した様なそうではないような。気がつけば、僕は少し考えさせてといって扉から逃げるように出ていた。 その後はまっすぐ家に帰るわけでもなく、頭を冷やすように夜風に身を任せていた。季節の変わり目なせいもあり、日中の夏のような暑さが嘘のように冷たく、夜の気温はもう秋の訪れを告げていた。 まるで悪いことをして逃げてきた様な気分だった。あいつの気持ちにまっすぐ答えることが出来なかった。  耳にはあいつの声が残っていた。 ―好き― その言葉だけは街の騒がしさに負けないくらい耳に付いていた。 僕は、アイツのことどう思っているんだろうか。 アイツの笑い声、好きな物、遊んだ思い出。街を歩けば歩くほど自分の中に確かにアイツはいた。 なぁんだ、僕も好きだったのか。ストンと何かが落ちる気がした 。 ―今、行かないと間に合わないぞ。 答えを返しに行こうと踵を返した僕を日光が後押ししてくれている様な気がした。
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