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過去 自己欺瞞からの秘めた誓い
自分が人と違う事を、思春期真っ只中な頃。情報として知った。
中学生になって、学年が上がって、自分も皆と同じ様に経験していくものだと疑わなかった。
授業で男女の身体の仕組みを習い、興奮気味なクラスの中でも、一人興奮の意図が判らず、とりあえず一緒に盛り上がってる振りをした。
昔から、“振り”は得意だ。喧嘩をした事も苛められた事もない。
上にも下にも突出せず、ごくごく平均的に過ごす天賦の才能があると今でも思う。
周りに合わせるのは、別に無理をしている訳ではなく、苦も無く皆と同じ事で盛り上がったりすることは、単純に楽しいと思えるからだ。
皆が異性を意識して色気づいてきた頃、自分もこれから同じ道程を辿り、楽しい青春を過ごす物だと思っていた。
そんな頃、告白されて彼女が出来て、外見上は普通のカップルになったけれど……経験する事は、無かった。
女子と居て友人同様に楽しいけれど、性的衝動が起こらない。
(みんなの好きと俺の好きは違うのか?)
ネットで見たり、テレビやなんかで聞きかじったりした知識を総合すると、自分の興味の対象が同性だと気付けた。
気付いた時の気持ちは、ショックや悲しみ憤り等ではなく
(自分で先に気付けて良かった……)
と心底胸を撫で下ろしていた。
無意識に視線で追っていた、自分のタイプなんだろう同性への動向を、先に他人に指摘され、揶揄されたとしたら……立ち直れなかったかもしれない。
「大丈夫。俺はみんなと同じように、振る舞える」
胸の中で誓った通り、奇異な目で見られず誰にも気付かれず同調して楽しく過ごした。
中学受験前、情緒乱すことなく持ちこたえた。
高校に入っても、変わらず普通を演じられた。
可愛いとされる芸能人を言い合ったり、クラスで気になるふりをしたり、また女子と清い交際をしてみたり。
自信がある。誰にも気付かれてはいない。
そんな穏やかな高校生活を送れたのは……きっと、冷静に立ち振る舞えた、このお陰だと言い切れる。
同性に生理的に視線と身体が向かう事は有ったけれど、心まで向かう奴がいなかったからだ。
高校卒業するまで衝動が抑えられない程、心掻き乱される相手に、出会っていない。
恋する心が誰にも芽生えなかった。
俺の無難で、人並じゃ無い癖に人並な思春期は、滞りなく終わりを告げた。
強がりでなく、普通に楽しい高校生活だった。
恋愛感情が芽生えなかった自分を褒めたい位に。
卒業後の進路を考えなければいけなくなった時、俺は誰より真剣に考えた。
今まで目を逸らしてた、自分の皆と同じではない将来に。
希望大学への進路は簡単に決めた。
そんな事より、目を背けてきた自分自身の事を冷静に考えてみた。
想像してゆく内、参考書のフローチャートが俺の人生にすり替わる。
これから先も、誰も好きにならなかったとしたら。
独身貴族を謳歌するのか?
カモフラで女性と結婚して、暮らすのか?
同じ嗜好の人と知り合い、タイプと鑑みて、そこから恋愛を始めるのか?
万が一、好きな奴が出来たとしても。
玉砕覚悟で告白するのか?
我慢して隠し通して生きてゆくのか?
心血注いで、好きになって貰える様に努力を…なんのどうやって努力を?
(すげぇ。お伽噺よりハードル高い気がするな……)
悲観論者ではないけれど、どの未来にも自分が心から好きな人が出来、尚且つ両想いになり、幸せに暮らしている姿は見据えられなかった。
それ以前に、どの分岐も社会に出ると、色んなしがらみが絡んできて、自分の意志通りに行動出来ない気がする。
俺は三日三晩考え抜いた結果、誰にも明かさず、心に決めた。
心身共、一番自由が利く大学生の間に、人生の中で一生に一度かも知れない事を実行する。
「好きな奴を作る。そして……ひと時で良い。一緒に暮らしたい。人生の思い出を、作る」
現実味の無い夢物語の様な計画。だけど本気だ。
同調ばかりして生きてきた俺は、生まれて初めて、人と違った生き方を目論んだ。
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