或る、夏の日

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或る、夏の日

同居人の加藤が、高校の時の後輩長谷川君に電話をしていた。 今日、二人で会うらしい。 俺は気が付くと性質悪く、盗み聞きしてしまっていた。   *  *  * 店から出て別れ際の二人を、俺はただ見つめている。 ガラス越しでは良く見えなかった少年の様子は今はっきり見てとれて、彼の心情を確信する。 加藤を呼び止め、戸惑い恥らいながらも、差し出された掌。 様子、表情から痛いほど感じ取れる。 (少なくとも、俺は) 今までの電話と、二人が出会った様子で感じた予想は、十中八九当たってるんだろう。 少年の加藤に別れを告げた後の表情を見て、俺は胸が軋んで、目を逸らした。 (辛いな……お互い) 自虐的な笑いが込み上げる。 あの少年は、様子を見るに、告白はとどまったんだろうか。 加藤を目の前にしたら……言えない気持ちも、解りすぎる。 俺は、辛い荊の道だと判っていながら、歩みを止めない。止められず今日まで来た。 現に今もこうやって、曲がり角で愛しい姿が現れるのを待ってしまっている。 「加藤、」 「ウワッ!! 京、なんで? ここに?」 突然目の前に現れた俺に、加藤は大きな声で想像通り驚いてくれた。 「スーパーの帰りだ。たまたまお前の姿見つけてさ、驚かせてやろうと思って、ここで潜んでた」 「なんだ、そうか! あーびっくりした」 加藤は俺の嘘を疑いもせず、純粋に信じてくれる。 スーパーで買い物をしたのは本当。だけど偶然じゃなくここまで来た。来る気の口実でスーパーに行ったから、生物なんて買っていない。 ここで二人の姿を見て、滴る汗も気にせず小一時間立ち尽くしていた。 「あ、ありがとう」 黙って袋を半分取り上げられ、加藤のお陰で漸く指の先まで血が通う。 二人の様子に夢中になっていて、白んだ手の痛みも重さも感じていなかった。 「俺の分も買ってくれてんのに、当たり前だろ。夕飯、何?」 「これ見て、お前の好きな……」 関係は ただの ルームシェア仲間。だけど俺にとっては…… 一年前、加藤と出会って 一生で一度きりだろう行動を起こした。
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