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古河秀明の恋 ①
気になる女の子に告白したものの、振られてしまった、三十路の冬。
「そうかぁ。まぁ、女なんて星の数ほどいてるし、気にしぃな」
いきつけの喫茶店『モンキーアイランド』のカウンターで、マスターの猿島俊に慰めてもらった。
「マスターはええやん! あんなかわいい婚約者がいてるし」
小さな店内で後片づけをするマスターの婚約者、石岡愛美をチラッと見て言った。
「まぁ、ね。ははは」
「はぁ。今年のクリスマスもひとりぼっちか」
「古河さん、まだ三十路になったとこやろ? オレもう三十五やし、結婚したってええやん? オレかって、古河さんくらいの年の頃は……」
「オレくらいの年の頃は?」
「彼女もおらんから、かわいいサンタに慰めてもらいに夜の街へ……」
石岡さんに聞こえないよう、小さな声でマスターが言った。
「……寂しいクリスマスやったってワケか……」
ふたりで顔を見合わせると、苦笑いをした。
「ごちそうさまでした」
「今日は、オレのおごり」
立ち上がり、ポケットに手を入れた時、マスターがボソッと言った。
「ありがとう。また来ますわ」
翌日から、いつも通り仕事。ひとりぼっちとか言いながらひとりぼっちやない。
「お待たせいたしました。百合ヶ丘団地行き、まもなく発車いたします」
今日もたくさんのお客様を乗せて、バスが出発する。
「スポーツセンター前、停車いたします」
オレは、近畿幸福交通のバス運転手。小さい頃からバスが大好きで、運転手になるのが夢やった。そんなオレは、今でもバスが好き。ずっとバス運転手を続けているけれど、辞めたいと思ったことは一度もない。クリスマスも、ハンドルを握っていられるんやから、ひとりぼっちでもええか。
がんばれ! オレ!
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