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【1章】9 ダンジョン脱出
「これぐらいのペースで大丈夫ですか?」
俺は問題ないと返しながら思う。
ドウシテコウナッタ!!
長く感じた探索も、当初の目的を達成したのでダンジョンから脱出することになった。
崎村1曹が他の招集者から聞き取った話では、他の道の先にモンスターはいなかったとの事なので、気にすべきは後方のみ。
更に、俺たち自身は出口に向かっているので、俺たちの存在に向かって突撃してくるような事でもなければ大丈夫だと思っている。
正直ちょっと気が抜けている。
五体満足 (重症だけど)で無事にダンジョンから脱出することは大変嬉しい。
現在の俺は、体の正面に視線を向けると崎村1曹の顔が見える体勢で抱えられている。
世間一般で言うところの『お姫様だっこ』という形だ。
思春期女性としては憧れの抱えられ方だ。
結婚式で男性の頼もしさはアピールするという形で、お姫様だっこは行われる。
しかし、基本的に男女のペアだ。
男同士ではまず行わないし、抱かれる側は何も気をまずらわす動作ができないので、更に気恥ずかしい。
いっそ、意識がなければよかった!
気絶していれば何も感じずに気づけば外だった!!
そんな、どうにもならない現実を憂うことしかできないのが悲しい。
気を紛らわせるために、お姫様抱っこをされることになった原因を思い出す。
■□■□■□
「さすがに無理でしょう……」
「崎村1曹、もう少しだけ時間を」
クマ退治をした地点から帰ろうとした時に、俺の体に問題が起こった。
体を少し動かすだけでも激痛が走るようになった。
指先等の細かい動作なら大丈夫だけど、腕等の大きい部分を動かそうとすると発生する。
全身を電撃が駆け抜けたような衝撃で、痛みを感じる際には思わず息が止まってしまう。
傷を手当している最中まではよかったのだけど、少し時間を置いた事で緊張が解けてしまったのか、体をまともに動かせないような状態になっている。
交通事故の時に、事故に遭った時には特に何ともなくても後から症状が出てくることと同じ状態なのだろうと考えている。
通常ならここで救急車を呼びたいところだ。
しかし、残念ながらダンジョン内に救急車は対応していないだろう。
そもそも、外との連絡手段自体がない!!
俺の歩行が難しいとみると、代案として提案されたのが崎村1曹に運ばれる方法だった。
意識が朦朧としてるのならばまだしも、30代後半が背負われるのはなけなしのプライドが顔を出してくる。
「和田さん、いくら階段までの道にモンスターがいないからと言っても、安全なわけではありません」
「…………わかりました、お願いします」
少し経っても立つこともままならないので、なけなしのプライドを無くすこととなった。
クマと戦った時に危険のMAXを感じてしまったせいか、危険感覚が大分くるっているようだ。
崎村1曹の言うようにここも安全なわけではない!
「それでは、『お姫様だっこ』のスタイルでいいですよね?」
はい?
取り合えず聞き間違いだな。
「すみません、今なんて言いました?」
「ですので、お姫様抱っこです。 恋人同士が行うアレです」
……どうやら聞き間違いじゃなかったらしい。
「崎村1曹、俺は男ですよ?」
「和田さんの恥ずかしさ察しますが、装備の関係上お姫様抱っこが一番負担がありません」
そういって主に銃を持っている事への説明を続けられる。
・歩けない (というか自力で立てない)
・おんぶは装備の関係で無理
という条件からの消去法的で、お姫様抱っこになったらしい。
こんな形でお姫様抱っこの初体験を迎えるとは思ってなかった……
そもそも、お姫様抱っこ自体をされる側になる予定も皆無だったけど。
■□■□■□
「そろそろ出口です」
回想をしていた意識が、崎村1曹のどことなく嬉しそうな声により浮上する。
時計を見るとクマの場所から20分ぐらいの時間しか経ってない。
普通に歩けばそんなに時間がかからない距離だという事か。
崎村1曹は洞窟内にも光が届いてくるポイントで一度休憩を入れる。
明るい所から暗い所に行くのと逆の形で目を慣らすためだ。
暗い所に慣れた目は光を多く取り込む為に瞳孔が開いているので、一気に外に出た場合の目へのダメージは考えたくもない。
スマホも当たり前の世の中で、視力を失うという事になったら、生活への影響は計り知れない!
まあ、突入時の事を考えると何人かはいきなり外に出る愚行を犯したと思うけど。
一旦お姫様抱っこを解除してもらって床に下ろしてもらう。
流石に無言は気まずいので当たり障りない話題を振ってみる。
「崎村1曹って最近どんなアニメとか見てるんですか?」
そう聞くと予想外の振りが来たような顔を崎村1曹はする。
あれ、なんかチョイス間違えた?
有線にアニソンは普通に流れてるから、今ってアニメは市民権得てるよね?
「今日の天気どうですか?」と同程度に当たり前の質問だと思うのだけど。
「今季でしたら、日常系の○○や投稿小説原作の△△、オリジナルですと××ですね」
焦っていると崎村1曹が返してくれるので一安心して、今期のアニメの話や最近の流行について盛り上がる。
崎村1曹が昔見たアニメで盛り上がろうとしてたので、今の放送内容で話せるとは思ってなかった。
「自衛隊でアニメを見てる人は少なくないので、和田さんなら隊のメンバーと仲良くできると思いますよ。 何人かそんな感じの奴いますし」
そう言って、軽くキャンプに集められている隊の事情も話してくれる。
俺たち招集者と事情が変わらないというのには驚き、組織というものの面倒さを改めて感じる。
「そろそろ、いけそうですか?」
少し他愛のない話が途切れたところで、崎村1曹が確認の声をかけてきた。
目に感じるまぶしさが大分落ちてきたので、頷く。
ここからは自分で歩けないかと思ったけれど、無理だったので再度お姫様抱っこになった。
せめて人前に出るときはお姫様抱っこでない形にしたかった……
崎村1曹にお姫様抱っこされたまま、日常とダンジョンを繋ぐ出口をくぐる。
一番最初に目に入ってきたのは、黒光りする主砲だった。
……
…………
いや、待って!
さっき小銃の恐怖から解放されたばかりなのに、ランクアップしたものが最初に目に入るのは心臓に悪い!!
万が一モンスターに追われて逃げてきた時の為に戦車をダンジョン近くに持ってきてというのが実情だとは思う。
しかし、穏やかな日常を頭に思い描いていた俺の顔は、相当に引きつったと思う。
ダンジョンに入る前に作ったフラグ、無事生還という形で発言してしっかりと折っておかないと……
クマ戦以降、銃口を向けられているので不安になってきた。
さすがに今日中で更にランクアップする事はないと思うけど、不安要素は早めに消そうと、崎村1曹の腕の中で強く決意をする。
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